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不器用なふたり 新たなる挑戦5

مؤلف: 相沢蒼依
last update تاريخ النشر: 2026-01-12 06:10:24

「ねぇまーくん、インプのナビシートに乗ってみたいな。まーくんの走りを、すぐ傍で見てみたい」

「それは駄目っス! 信用してる人しか乗せないことにしてるので」

速攻断った俺に、橋本はニヤけそうになる。信用に値する自分が優位にたっていることについて、女に自慢したくなった。

「そこにいるおじさんは、まーくんが信用する人なんだ」

「陽さんは、おじさんじゃないですって!」

「いやいや。若い彼女から見たら、充分におじさんだろ。しょうがないさ」

女に負けない笑みを、橋本は顔面に表した。普段お客様にしている営業用のスマイルではなく、嬉しさに揺れるような会心の微笑みだった。

ふたりが微笑みあっている姿に、どうしていいかわからなくなる。しかも谷間に腕を挟まれた状態を脱したいのに、皮膚に感じるふにふにした柔らかさのせいで、下手に動かすことができなかった。

「まーくん、彼女いるの?」

「付き合ってる人がいるので、この腕を離してくださいっ!」

俺が即答したのに、女は脇を締めて豊満な胸でさらに腕を包み込む。

「まーくんってば、嘘ついてるでしょ?」

「嘘じゃない、本当のことなんです!」

「そうだぞ。コイツこ
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  • BL小説短編集   朝の鍵盤に触れるように

    *** 目を覚ますと、すぐ隣に陽の寝顔があった。 まだ眠っている。寝癖もついたまま少しだけ唇を開けて、穏やかな寝息を立てていた。 昨夜は……甘かった。柔らかくて、熱くて、でも決して急かされることはなくて。彼の中に自分が包まれていくたび、ひとつずつ“確かさ”が積み重なっていく。 シーツの中に伸ばした手が、まだあたたかい。指先に触れる肌の感触が、余韻のように残っている。「……陽」 呼びかける声は、喉の奥で震えた。ふたりで暮らしを始めて、何度目の朝だろう。昨夜とは違う静けさの中で、僕の胸はゆっくりと満たされていく。 寝返りを打つように、陽が少しだけ体をこちらに向けた。頬にかかる髪をそっと指で払ってやる。 ――ピアノの鍵盤に触れるときと、同じくらい慎重に。壊さないように、大切に。「……もう恋人ってだけじゃ足りないくらい、君が近いな」 そう思ったとき、陽のまぶたがゆっくりと開いた。「……ん、おはようございます。司……」 寝起きの声は、かすれていて甘い。たまらず、僕は彼の額にそっと口づけた。そうしてから、もう一度瞳をのぞきこむ。「昨夜のこと、夢じゃない?」 「……夢じゃないですよ。ちゃんと……ここにいますから」 陽は微笑むと僕の首に手をまわし、そのまま唇を重ねた。朝のキスは、夜よりもゆっくりで、でも芯からあたたかい。「……起きるの、もったいないですね」 「ほんとだ。もう一度、君に触れたいって思ってる」 「お返しですか? じゃあ……やさしくしてくださいね、司」 陽の瞳が、ほんの少しだけ潤んで、でもどこか挑むように笑っていた。その顔が、愛しくてたまらなかった。 ゆっくりと彼の体を抱き寄せる。シーツが滑る音と重なる鼓動。言葉よりも先に、肌が熱を求めていた。「やっぱり、朝の陽は特別だな。いちばん綺麗だ」 「そういうの、ズルいですよ」 抗議の言葉とともに、くすぐったそうに笑う声。たったそれだけで、また心がほどけてしまう。 朝の鍵盤に触れるように優しく、慎重に――けれど確かに、僕たちはふたりでまたひとつ“愛”を奏でていた。*** 食卓に並ぶトーストとコーヒー。新しい同居生活のはじまりに、ぎこちない笑いと、「砂糖どこだっけ?」なんてやりとりもあったけど……。 この朝が、これからのすべてになる。 音楽よりも確かで、生活よりもあたたかい、

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    ***「陽、こっちの段ボールって……なにが入っているんだい?」 「えっと、たぶん楽譜とかノートとか……って、あ、それ崩れる! あぶなっ……!」 引っ越し初日。俺の荷物は思ったより多くて、九条さん――じゃなくて、“司”の部屋(今日からふたりの家)には段ボールが山積み状態だった。「……ふふ。思ってた以上に“生活感”が溢れてるね」 「ピアノ関連だけで、箱が三つありますからね……でも、これでようやく“恋人同士の同居”って感じがします」 ソファに並んでどっと座り込むと、司がペットボトルを渡してくれる。汗をかいた首元から冷たい風が入って、少しだけほっとした。「……ねえ陽。こうして一緒にいるの、すごく自然だなって思う」 「俺もです。まるで最初からこうだったみたい」 自然と笑い合う。疲れてるはずなのに司が隣にいると、それだけで体の力が抜けていく。これが「帰る場所」なんだって、やっと思えた。*** 夜。段ボールの半分だけ片づけたところで、ふたりして早めにベッドに潜り込んだ。「……ねえ、陽。今日は疲れてる?」 「そうですね。でも司とこうして一緒に寝られるのは、やっぱり嬉しいです」 隣から伸びてきた腕が、俺の腰をそっと抱き寄せた。甘えるような抱きしめ方。まだ慣れない“ふたりの寝床”に、心の奥がじんわりとあたたまる。「ねぇ、ちょっとだけ……触れても、いい?」 「……ちょっとだけですよ?」 その“ちょっと”が嘘になるのは、お互いわかってた。 唇が触れて、息が混ざって、司の手がシャツの裾をそっと撫でる。優しくて、あたたかくて――愛おしさが指先から零れてくる。「……陽の匂い、好きだな。落ち着く」 「司、ちょっと甘えすぎです」 「君にしか、甘えられないから」 そんなことを言われたら、胸の奥がとろけてしまう。 服の上から撫でられる背中。そっと噛まれた耳たぶ。唇の隙間から漏れる吐息が、寝室の空気を甘く変えていく。「もっと、陽に触れていたい」 「……だったら、ちゃんと“恋人らしい”ことしてくれなきゃ」 「どういうことだろうか?」「俺にも、気持ちよくさせる“お返し”、してもらいますから」 司が一瞬だけ、驚いた顔をする。けれど次の瞬間には、艶のある笑みに変わっていた。「じゃあ、覚悟してて」 ベッドの中で重なる体。触れて、感じて、名前を呼び合って―

  • BL小説短編集   鍵を渡すその前に

    *** 日曜の朝。キッチンからコーヒーの香りが漂う中、俺は司の部屋でゆるく伸びをした。 演奏会から一週間。正式な言葉はまだ交わしていなかったけれど、俺たちの距離はすっかり“恋人”に近づいていた。 ……でも、まだ言葉にはしてない。付き合おうとか、一緒に住もうとか。 たぶん司は、慎重にタイミングを見ているんだと思う。そういうところ、丁寧な人だ。「陽。コーヒー淹れたけど、先に飲む?」 リビングから司の声がする。ソファに腰かける彼の隣に座ると、マグカップを手渡された。 まだ寝癖の残る髪。ゆるい部屋着。そんな無防備な司を見られるのは、いまのところ世界で俺だけなんだって思うと、ちょっと優越感すらある。「ありがと。……あ、ちょっと熱いですね」 「ふふ。淹れたばかりだからね」 ふたりしてコーヒーをすすって、少しの沈黙が流れる。その沈黙が心地よくて、俺は思わず微笑んだ。 と、そのとき。「……ねえ、陽」 司がカップを置き、まっすぐ俺を見る。いつになく真剣なまなざしだった。「はい?」 「その……ちゃんと、言いたいことがあって」 声が少しだけ緊張しているのがわかる。俺も姿勢を正して、彼の言葉を待った。「……付き合おう。ちゃんと恋人として」 その一言で、胸の奥がふっと温かくなる。司らしい、真っ直ぐで誠実な告白。「……はい。喜んで」 笑うと司はほっと息をついて、それから少しだけ照れたように笑った。そして、ポケットから小さな鍵を取り出す。「これ、君に渡したくて。合鍵……よかったら、ここを“ふたりの家”にしないか?」 俺は、その小さな銀色の鍵をそっと受け取った。軽いはずなのに、ずしりと心に響く重さだった。「……本当にいいんですか? こんな俺で」 「陽じゃなきゃ、ダメなんだ」 司の声は静かだったけれど、決意の色を帯びていた。「君と一緒に朝を迎えて、君がいる音のなかで曲を書いて……それが“日常”になってくれたら、それだけで充分なんだ」 その言葉が、俺の胸に染み込んでいく。「俺も、司と暮らしたいです。朝ごはん作って、洗濯して、音の話をして……なんでもないことを、ふたりで重ねていきたい」 「……ありがとう」 司がそっと俺の手を握る。その指先は、もう震えてなんかいなかった。 音楽と一緒で、恋もきっと“調律”がいるんだろう。音のズレを許して、合わ

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    *** 朝の光が、カーテン越しにやわらかく差し込む。 昨夜の熱がまだ残るベッドの中で、僕はぼんやりとまどろんでいた。隣では陽がすっかり目を覚ましているようで、なにやらスマホをいじっている。「……おはよう」 声をかけると、陽はふとこちらを振り向いた。けれど、すぐにふっと意地の悪い笑みを浮かべる。「おはようございます……司、昨日すごかったですね」 その一言で、昨夜の記憶がいっきに押し寄せてくる。「……い、いきなり、そんなことを言わないでほしい」 「だって。あんな顔、初めて見ましたよ? “陽……もうダメかもしれない”とか、すごい声で……ふふっ」 「うっ!」 思わずシーツを引き上げて顔を隠す。けれど、陽は隣であからさまに楽しそうに笑っていた。「ずるいな。君ばっかり冷静で……」 「冷静じゃなかったですよ。ちゃんと司のせいで、すっごく乱れてましたし」 そう言いながら、陽は僕の肩に頬を寄せる。まだ少し甘えた仕草で、けれど目はしっかりと笑っている。「でも、嬉しかったです……ちゃんと、俺に乱れてくれて」 「……そんな言い方、反則だ」 「だって俺、調律師ですから。司の“弱いとこ”も、ちゃんと覚えておかないと」 そう囁かれたあとに、耳元を甘く噛まれる。それだけで息が詰まりそうになった。だけど、とても心地いい。「ねえ、司」 「……ん?」 「“次”は、俺が攻めてもいいですか?」 「っ!」 思わず言葉を失う。すると陽は、僕の唇に軽くキスを落としたあと、ひょいとベッドを抜け出した。「冗談ですよ? ……たぶん」 からかう感じで告げた彼はニヤッと笑って、キッチンに向かう。その後ろ姿に、ため息をついた。 ……ああ、これはもう勝てそうにない。でもそれも悪くない、かな。*** 陽の後ろ姿を見ているだけで、心の奥に柔らかい旋律が鳴り始める。こんな朝が、ずっと続けばいいと思ってしまった。 数分後、コーヒーの香りが漂ってくる。着替えもせずに、そのままダイニングチェアに座る陽は、まるで何事もなかったかのようにカップを差し出してきた。「はい、目覚まし代わりに」 「……なんだか全部、君に転がされてる気がするんだが」 「いいじゃないですか。司のピアノも、俺のこと転がしてくるんですから。おあいこです」 からかい半分、愛しさ半分。そして、そこにはたしかに“恋

  • BL小説短編集   この音が終わらないように

    *** 呼吸が落ち着いてきた頃、僕は陽の額に静かに唇を押しあてた。濡れた前髪を指先でかきあげながら、その頬に手を添える。 彼は腕の中で眠るでもなく、目を伏せたまま微かに震えていた。「……陽、大丈夫?」 優しく訊ねると、陽はかすかに首を縦に振った。けれど返事はなかった。 肌の熱がまだ抜けきっていない。汗ばんだ背中を、そっと毛布で覆う。僕の指先をその手で掴んだまま、陽がぽつりと呟く。「……なんか、ずるいですよ、司は」 「どこが?」 「……好きにならずにいられるわけないじゃないですか、こんなの」 その言葉に、思わず喉の奥で息を詰めた。愛おしすぎて、言葉が見つからない。 目を伏せたまま、陽が続きを呟く。「今日の音も、キスも……その手も。全部、ちゃんと届いてきて……」 ぽろりと目尻から涙が零れ落ちる。それは哀しみではなかった。安心と幸福が飽和して、溢れ出た涙。「ごめん。泣かせたかったわけじゃないんだ」 「違います……泣いてるんじゃなくて……しあわせなんです。たぶん、いままでで一番」(ああ、僕はもう、この人の涙の意味ひとつに、一生を懸けてもいいと思ってしまった――) 僕の胸の奥で、なにかが静かにほどけていく。彼が“震え”ではなく“想い”をさらけ出してくれることが、たまらなく嬉しかった。 ぎゅっと抱きしめると、陽は素直に身を預ける。柔らかな髪に口づけを落とした。「陽……僕がこんなふうになるなんて、自分でも驚いてる。でも、もう戻れない。君なしじゃ、生きていけない」 「……俺もです。司の音がない毎日なんて、考えたくもない」 指先を絡める。汗と涙の混じったあたたかな体温が、静かに繋がる。 その夜、僕たちは何度も口づけを交わし、互いの肌を確かめ合った。けれどもう、“触れる”という行為は目的じゃない。ただ、こうして近くにいることが――生きている音そのものだった。*** 窓の外では、夜明けが始まりかけていた。淡い空の色を眺めながら、ベッドに横たわる陽の背を、僕はそっと撫でる。「ねぇ陽」 「……はい」 「これが夢だったら、どうしよう。目が覚めて、君が隣にいなかったらって……少しだけ怖い」 「だったら、次に目を覚ましたときも、俺が“おはよう”って言いますよ。何度でも、司の隣で」 僕はなにも言えなかった。言葉よりも、彼の存在が“真実”すぎて

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    *** 陽の体の熱が、僕の腕の中で徐々に高まっていく。彼の吐息は、もうはっきりと甘さを含んでいて、それがたまらなく愛しい。 ソファに横たえた彼のシャツを、ゆっくりと指先で外す。ボタンがひとつ、またひとつと外れていくたび、隠されていた素肌が露わになる。俺の指がなぞるたびに、彼の肌はわずかに震えた。「……陽、ここ、弱いんだね」「っ、司……ほんとに、いじわる……」 恥じらうように俺の胸元に顔を埋める仕草も、声の震えも、すべてが音楽のようだった。調律師の彼が奏でる音ではなく、僕だけが引き出せる“音”。 その感情に突き動かされるように、唇を鎖骨に落とした。吸い付くように、噛むように、跡をつけていく。誰にも見せられない場所に、僕の証を残したくて。「こんな顔、誰にも見せないで。……僕だけの陽でいてほしい」 喉元に口づけながら、耳元で囁く。陽の腕が、僕の背中にそっとまわされる。 彼の体温が高い。熱を持って、俺を欲してくれていることが、確かな鼓動となって伝わってくる。 ふたりの足が自然と絡まり、肌と肌が重なり合う。まだ“最後”までは踏み込まない――けれど、もう気持ちはそれに近いところにいる。 腰のあたりに触れれば、彼の呼吸がはっきりと跳ねる。目を合わせれば、もう逃げられない場所まで来ていることがわかる。「……ねぇ陽。今、君の音が、僕の中でこんなに響いてる。苦しいくらいに、君が愛おしい」 濡れた視線を落としながら、額を重ねる。唇をまたひとつ重ねて、深く長くキスをした。唾液が混じり合い、舌と舌が探るように触れ合う。 ――このまま彼に溺れてしまいたい。音も名前も、忘れてしまうくらいに。「司……っ、もう、ちょっと……んっ」 陽の吐息が僕の耳元で揺れて、それだけで旋律のようだった。かすかに濡れた声が、僕の中の“調律”を狂わせていく。「だめ。今夜は……まだ終わらせない。陽の全部をこの耳で、ちゃんと聴きたいんだ」 指先で彼の背中をなぞりながら、また唇を落とす。次第に彼の動きも溶けていって、まるで僕の演奏に応えるように、緩やかに体を開いていく。 ベッドでもステージでもない場所で、こんなにも深く誰かと“音を重ねる”とは思わなかった。 僕は確かに今――芹沢陽という旋律に溺れていた。

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